高齢者がご飯を食べない理由と対応策:看取り期における食事ケアの重要性

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「利用者さんがご飯を食べてくれなくて困ってしまう。」「なんとか食べさせたい。」という空気感が生まれ、どんな方でも全量摂取を目指してしまう介護サービス事業。もしかしたら存在しているかもしれません。

そのように考えてしまう要因は、前提となる知識の不足にあるかもしれません。介護業界は、ほぼ無資格で働くことができ、経験値のさまざまなスタッフがいますから、全量摂取を目指すことで、問題の無いケアができると思い込んでしまっている方もいるでしょう。

この記事は、原因から対策まで紹介していますので、読むことで「ご飯を食べない高齢者」の方に適切なケアを行うきっかけが生まれるかもしれません。

ぜひ、ご一読ください。

高齢者がご飯を食べない理由とは?

高齢者が食事を拒否する理由は、体調や心理的な問題、さらには看取り期の生理的変化など、さまざまな要因が絡んでいます。それぞれの要因に応じた適切な対応が、介護現場での課題解決に役立ちます。

体調や心理的な要因

高齢者が食事を摂取しない主な要因には、以下のような身体的な不調や心理的な問題が挙げられます。

口腔内の問題歯の痛みや入れ歯の不具合、ドライマウス(口腔乾燥症)などが原因で、食べ物を咀嚼することが難しくなることがあります。
消化器系の病気胃炎や胃がん、便秘などが影響し、食事を避ける可能性があります。
うつ症状精神症状も高齢者の食欲減退につながる要因です。ある研究では、特に施設入所高齢者において、孤独感や社会的な孤立が心理的ストレスを増し、それが食事の拒否につながると指摘されています。

実際のケースとしては、認知症や精神疾患を持っている利用者の食事摂取量が減ってきた時、食事量低下のきっかけの中心が「歯茎の痛み」だったことがあります。認知症などで、痛みなどを適切に訴えることができず、食事の時に痛みが現れた結果「食べない」という選択をその方はとったのだろうと思われます。

参考:施設居住老人心身の状態との栄養摂取量との実態J-Stagehttps://www.jstage.jst.go.jp › article › jjsnr › _pdf › -char

看取り期における食事拒否の背景

看取り期における食事拒否は、終末期の自然な現象です。この段階では、身体がエネルギーを必要としなくなり、食欲も低下していきます。水分も徐々に摂れなくなります。これには、代謝の減少や消化機能の低下が関連しています。終末期の患者に対する無理な栄養摂取がかえって患者の苦痛を増す可能性があることがあります。

また、看取り期の高齢者に対しては、食事を無理に進めるのではなく、必要としていることに焦点を当てることが大切です。患者が自分の意思で食事を拒否する場合、それを尊重する姿勢が重要です。

また、施設介護などであれば「身寄りのない高齢者の入院、入所に係る 支援の取組事例集」などの事例を参考に、意思決定を共有することで、支援時にトラブルが生じにくいように進めることができるでしょう。

上記の取組集にある「看取り介護についての同意書」などを作成し、家族やチームで意思決定を共有していくことが大切です。

参考:https://www.tampopo-clinic.com/aboutus/mitori/mitori_18.html

参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjmj/57/6/57_570/_pdf

参考:https://www.soumu.go.jp/main_content/000803633.pdf

環境や食事の内容が影響する場合

食事の環境や内容も、高齢者が食べない原因となることがあります。例えば、騒がしい環境やストレスの多い状況では、食事に集中できず、食欲が減少するケースがあります。食事を楽しくリラックスした雰囲気で行うことが、食事を促進する要因として知られています。

さらに、食事内容が硬すぎたり、一人では食べにくい場合も食事を拒否することがあります。改善策としては、たとえば適切に調理されたやわらかい食事や、一口サイズにカットされた食材などの対応や介助支援、補助具の活用などが考えられるでしょう。

栄養士や作業療法士などの専門職との連携によって、個々のニーズに合った食事形態を提供することが、効果的な解決策となります。

しかし、具体的なケースでは、1人で周りの方の影響を受けない方が食べやすい方も確かにいます。反対にかえって1人でいることで精神的な落ち込みが生まれてしまい、食が進まない方も実際にいます。

重要なのは、本人の性格を理解しようと努力し、より良い環境を試していくことになるでしょう。

食事を拒否する高齢者への対応方法

高齢者が食事を拒否する場合、単に「食べさせる」ことに焦点を当てるのではなく、状況や食事の提供方法を見直すことが求められます。高齢者の心理的・身体的負担を軽減し、食事を楽しむための工夫が必要です。

食事の時間や環境を見直す

食事の時間帯や環境の調整は、食事を促す上で非常に重要です。一定の食事時間を設けることで、体がそのリズムに慣れ、食欲が湧きやすくなります。また、他の利用者と一緒に食事をすることは、社会的交流を促進し、食事に対する意欲を高める助けとなります。

さらに、音楽などを使って食事の雰囲気を良くすることも有効です。ある研究によれば、クラシック音楽などが有効だとされています。リラックスした環境は、心理的なストレスを軽減し、自然な食欲を呼び起こす手助けとなることもあります。

ただし、これらの良いとされる環境(社会的交流や音楽)が効果的ではない場合もあるでしょう。

あるケースでは、静かで環境の影響を受けにくいことが食欲を増すこともありました。たとえば、認知症によって、周囲の人や環境が気になり、他人に注意をし始めてしまい、自身の食事に全く集中できなくなるなどがあります。

人によって、好まれる環境は全く違うため、それぞれの方に合わせる必要があります。

参考:https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282680538551296

看取り期における食事のサポートの考え方

看取り期においては、無理に食事を進めるよりも、本人の意向を尊重することが重要です。食事が取れなくなることは、終末期の自然なプロセスであり、無理な栄養摂取が患者にとって負担となることがあります。代わりに、口腔ケアや水分補給、好きな食べ物を少量でも提供することで、本人の負担を減らしながら、食事をコミュニケーションの一環として楽しんでもらうことが考えられます。

参考:https://www.tampopo-clinic.com/aboutus/mitori/mitori_18.html

医師や栄養士との連携を取ることの重要性

食事を拒否する高齢者に対しては、医師や栄養士との密な連携が不可欠です。栄養士は、高齢者の状態に応じた栄養バランスの取れた食事や、食事形態の提案を行うことができます。また、医師は、食事拒否が体調の変化によるものか、終末期に関連するものかを診断し、適切なアプローチを指示してくれることでしょう。これにより、介護者は高齢者にとって最適なケアを提供することができます。

看取り期のケアで食事を無理にすすめるべきか?

看取り期において、無理に食事をすすめることが良いかどうかは、慎重に判断する必要があります。無理な摂取がリスクを伴うだけでなく、食事の意義そのものが変わることを理解することが大切です。

無理に食べさせることのリスクとその代替策

無理に食べさせることは、誤嚥性肺炎のリスクを高める危険性があります。高齢者にとって、食べ物を飲み込む能力が低下している場合、誤って気道に入る可能性が高まり、肺炎の原因となることがあります。状況によっては窒息もあり得るでしょう。終末期においては、食事を無理に摂取させることは、本人の負担を増やすだけでなく、命に関わるリスクも伴います。

代替策としては、食事量を減らし、食事形態を落としながらも、口腔ケアをしっかり行うことが挙げられます。これによって誤嚥性肺炎のリスクを多少抑えることができます。また、少量でも高カロリーな食品や栄養補助食品を取り入れることで、本人にとって無理のない範囲で栄養補給を行うことができるでしょう。

参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsg1987/16/1/16_3/_pdf

参考:https://www.dietitian.or.jp/publications/data/report/h19-2.pdf

看取り期の食事の意味とは?栄養ではなく心のケアに注目する

看取り期における食事の目的は、栄養補給よりも精神的なケアへと変わります。食事を楽しむことができなくなっても、介護者や家族と食卓を囲むこと自体が、精神的な安定感をもたらす重要な時間となります。また、少量の食事でも、好きな味や思い出のある食べ物を提供することで、高齢者が安心感や満足感を得ることができるでしょう。

家族の悩みをサポートするためにできること

看取り期の家族は、食事拒否に対する不安や罪悪感を感じることが多くあります。介護者は、家族に対して正しい情報を提供し、介護現場における適切な対応方法を提案することで、家族の不安を和らげることができます。

例えば、無理に食事をすすめるリスクや、看取り期の自然な体の変化について説明し「無理に食べさせないことが最善である場合もある」ことを理解してもらうことが重要です。また、家族が高齢者との残り少ない時間をどう有意義に過ごすかを一緒に考えることで、精神的な負担を軽減することもできるかもしれません。

さらに、家族が抱える罪悪感を和らげるためのサポートも重要です。例えば、「口腔ケア」や「手をつないで一緒に時間を過ごすこと」など、食事以外で家族ができることを提案し、高齢者とのつながりを感じられるような支援を提供することが効果的です。

まとめ

高齢者がご飯を食べなくなる背景には、身体的な要因や心理的な要因、さらには看取り期の生理的な変化が含まれます。それぞれの要因に対して適切な対応を取ることで、介護現場での問題解決に役立つでしょう。また、看取り期においては、無理に食事をすすめるのではなく、本人の意思や体調を尊重しつつ、食事を「栄養補給」から「精神的なケア」として捉えることが大切です。

介護者や家族が、高齢者との時間を穏やかに過ごせるよう、意思を共有し、多方面でサポートすることが、最後まで質の高いケアを提供するための鍵となります。

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